「これは大都会の片隅の公衆便所を中心とした悪の詩集です。」
表紙に鉛筆書きでこう記された原稿用紙7枚ほどの企画書があります。寺山修司がグレタ・ガルボら出演の名作映画「グランドホテル」の公衆便所版と位置づけた映画「トイレット」は、何らかの理由で制作されなかった幻の作品。ジャン・コクトーは同様にポエジーとして数々の美しい映画を撮ってきましたが、こちらは誰もが日々利用する生活空間を通して、よりラディカルかつユーモアに現代社会の暗部をえぐり出そうとしていたようです。 また寺山は企画意図として、こう綴ってます。 「現代人の孤立は、必ずしも政治的救済のみによって解消されるとは思われません。だれもが『はなしかける』相手を必要としていて、その媒介手段として性の問題が論議されています。 この作品ではコミュニケーションの風俗と欲望の飢餓状況を、日常的な現実と空想的な現実との交差する時点でとらえ、『トイレット』をめぐるいくつかのエピソードを通して、現代人の内なる時代閉塞の打開に向おうとするものです。(中略) 同性愛の問題、スカトロジー(糞便学)の問題(ラブレーの「ガルガンチュア」のようにユーモラスな扱いとして)政治の問題、好奇心の問題、落書の問題、変装癖、手淫、タブーとされてきたさまざまのモチーフを、詩的に処理しながら折りこみ、現代人の深層部をえぐりだしたいというのが狙いです。」 書かれたのは70年代前半~半ばと思われますが、アンダーグラウンドの底辺から虎視眈々と世間を驚かそうとしていた詩人の視点は死しても今なおその鋭さを失っていないように思えます。 新宿二丁目の公衆便所を舞台とし、男娼の便所掃除夫、「ゴッホ」という名の落書き魔、ロシア革命史を読むために便所にこもる者等が繰り広げるというこのストーリーが、もし実際に制作されていれば、寺山修司監督・脚本、加納典明ほか撮影、片山健美術、J.A.シーザー音楽らくせ者揃いのスタッフの下、天井桟敷はもちろん、丸山(美輪)明宏、麿赤児、萩原朔美等豪華メンバーの出演で行われるとのことでした。 この寺山修司肉筆企画書はゴールデンウィーク(4/27~5/9)にFlying Booksが出店する東急百貨店のイベントで展示・販売予定です。(鉛筆書・400字詰寺山専用原稿用紙7枚・¥420,000) 荒木経惟らが1971年に結成した「複写集団ゲリバラ5」の第一弾、高瀬芳夫による便所の写真のみで構成され、限定1000部で発行された幻の写真集『便所』(1973年・¥73,500)。企画書の中で寺山はこの写真集についても触れている。
by flying-books
| 2006-04-21 23:48
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